2012年5月1日火曜日

ハンチントン病


ハンチントン病
(Huntington Disease)
[HD, Huntington Chorea]

GeneReview 著者 :Simon C Warby, PhD, Rona K Graham, PhD, Michael R Hayden, MB, ChB, PhD, FRCP(C), FRSC.
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2010.4.22. 日本語訳最終更新日: 2010.6.16.

原文 Huntinghton Disease


要約

疾患の特徴

ハンチントン病(HD)は進行性の運動,認知,精神機能障害である. 平均発症年齢は35〜44歳であり,生存期間の中央値は発症後15〜18年である.

診断・検査

HDの診断は家族歴があること,特徴的な臨床所見,HTT遺伝子上で3塩基CAG反復配列の36回以上の伸長が検出されることに基づく.

臨床的マネジメント

症状の治療: 薬物治療は以下の通りである.不随意運動には,定型的な神経弛緩薬(ハロペリドール),非定型の神経弛緩薬(オランザピン),ベンゾジアゼピン,モノアミン枯渇薬のテトラベナジン.寡動症や固縮には,抗パーキンソン薬.精神症状(抑うつ症状,精神病症状,攻撃性の噴出)には,向精神薬や抗てんかん薬.ミオクローヌス型運動過剰症にはバルプロ酸.介護の必要性,栄養摂取,特殊な装置器具,国や地方自治体の給付受給資格にも配慮しつつ,生活支援介護を行うこと.
続発性合併症の予防 長期間の支援介護を必要とする者に通常生じうる合併症と,薬物治療の副作用に対する注意.
経過観察: 舞踏運動,固縮,歩行障害,抑うつ症状,行動変化,認知能力の低下の有無及び重症度を定期的に評価すること.ハンチントン病行動観察尺度(Behavior Observation Scale Huntington:BOSH)や統一ハンチントン病評価尺度(Unified HD rating scale:UHDRS)を用いた定期的な機能評価.
回避すべき薬剤・環境: Lドーパ含有薬(不随意運動を増悪させる恐れがある),アルコール摂取,喫煙.
その他: 親の1人がHDに罹患している小児や青年は地域のHD支援グループに紹介されることで,教材や心理的サポートなど,得られるものがあるかもしれない.

遺伝カウンセリング

HDは常染色体優性疾患である .変異アレルを1つ持つ患者の子が発病性アレルを受け継ぐ確率は50%である. リスクが50%の無症状成人への発症前診断は可能だが,治療法が存在しないことを踏まえて,慎重に考慮する必要がある(診断前後の遺伝カウンセリングの実施等).リスクのある18歳未満の無症状者は発症前診断を受けるべきではない.リスク50%の妊娠に対しては,検査の依頼自体は多くないが,分子遺伝学的出生前診断が可能である.リスクのある親の遺伝状態が明らかでない場合のリスク25%の妊娠に対する出生前診断は,連鎖解析を用いて実施される.


診 断

臨床診断

ハンチントン病(HD)の診断は以下の所見が認められる場合,臨床的に疑われる:

  • 舞踏様運動に代表される進行性の運動障害.随意運動も同様に侵される
  • 認知機能の低下,人格変化,抑うつ症状といった精神障害
  • 常染色体優性遺伝に合致する家族歴

注: HDでは運動,認知,精神障害の有無や発症の順序は様々である.HTT遺伝子のCAG反復サイズの検査がHDのリスク状況の確定に用いられる.診断と発症年齢は臨床的に確定されるが,通常運動徴候に基づいて行われる.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.編集者注.

遺伝子 HTT (HD)遺伝子はハンチントン病に関連する唯一の遺伝子である.CAGの3塩基の反復配列の伸長が唯一認められる変異である.

アレルサイズ

HTT遺伝子のアレルは,CAG反復数により,正常型,中間型,HD発病型に分類される.HDは優性遺伝であり,HD発病性アレルが1つあれば発病する.

  • 正常型アレル. p.Gln18(26未満),CAG反復数26回以下.
  • 中間型アレル. P.Gln18(27〜35),CAG反復数27〜35回.この範囲のアレルを持つ場合HDの発症リスクはないが,CAG領域は不安定なため,HD発病型域のアレルを持つ子が生まれるリスクがあるだろう[Semaka et al 2006]. 正確なリスクの値は低いが,現時点では不明である.中間型域のアレルは「変異可能アレルmutable alleles」とも言われている[Potter et al 2004].
  • HD発病型アレル. P.Gln18(36回以上),CAG反復数36回以上.HD発病型アレルを1つ持つ者は生涯にHDを発症するリスクがある.HD発病型アレルは,さらに以下のように分類される:
    • 低浸透性HD発病型アレル. P.Gln18(36〜39),CAG反復数36〜39回.この範囲のアレル保持者はHDの発症リスクがあるが,症状がでないこともある.稀なケースであるが,高齢の無症状者にこの範囲のCAG反復が見られることがある [Langbehn et al 2004].
    • 完全浸透性HD発病型アレル. P.Gln18(40以上),CAG反復数40以上.このサイズのアレルは,かなりの確実性で,HDの発症と相関している.

臨床検査

標的変異解析

  • PCR法で検出できるのはCAG反復数が約115回までのアレルである [Potter et al 2004, Levin et al 2006].
  • サザンブロット解析[Potter et al 2004]は以下のような場合に有用なことがある:
    • 若年発症性HDに関連する長い伸長領域の同定(PCR解析では増幅がうまくいかないことがある)
    • PCR解析で得られた,見かけ上,ホモ接合体の遺伝子型の確定

表1にHDで用いられる分子遺伝学的検査をまとめた.

1 ハンチントン病で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子記号

検査方法

検出変異

検査方法ごとの変異検出率

検査の実施

HTT (HD)

標的変異解析

CAGの3塩基反復配列伸長

100%

臨床レベル

検査手順

発端者の診断の確立  HD発病性のHTTアレルを1つ同定すること.

発症前診断 リスクのある無症状成人の血縁者の発症前診断には,事前に家系内で分子遺伝学的検査を用いた診断が確定していることが必要である.

出生前診断と着床前診断(PGD) リスクのある妊娠に対する出生前診断と着床前診断に際しては,事前に家系内で分子遺伝学的検査を用いた診断が確定していることが必要である.

遺伝学的に関連する疾患

HTT遺伝子変異に関連する表現型は他にはない


臨床像

自然経過

ハンチントン病(HD)の発病型アレルを持つ有リスク者は,発症してハンチントン病との診断が下るまでは,臨床徴候や症状が一切認められない健康体である.しかし,臨床症状が現れる前に,運動技能や認知能力,人格に,軽微な,さもなくば気づかれることのない変化が生じるような時期(しばしば「前-症状」期と言われる)が存在する[Walker 2007].


ゼノンにきびの意見

HDの平均発症年齢は35〜44歳である [Bates et al 2002].患者の約3分の2はまず神経症状を呈すが,その他では精神的変化が生じる.診断後の早期には,眼球運動の僅かな変化,協調運動,目立たない不随意運動,頭で計画を立てることの困難さが認められ,抑うつ症状や怒りっぽいことも多い(「HDの臨床徴候」を参照のこと). 患者は通常,普段の活動の大部分を遂行可能であり,就労の持続も可能である[Bates et al 2002].

HD患者の約25%では,発症が50歳以降に遅れることがあり,70歳以降も少数いる.このような患者では舞踏運動,歩行障害,嚥下障害がみられるが,典型症例と比較すると疾患はより長期かつ良好の経過をとる.

次の病期に進むと,舞踏運動がより顕著となり,随意運動がますます困難となり,構音障害と嚥下障害が増悪する.大部分の患者が仕事を諦めざるを得ず,介助の必要性が増すが,人格の独立性はかなりの程度保っている.通常,機能障害は著しいが,いきなり攻撃的な行動や脱抑制的な社会的行動をとり始めるといったことが間歇的にみられる場合もある.

HD末期には,運動障害が重篤化し全介助となり,緘黙症,失禁が見られることが多い.発症後の生存期間の中央値は15〜18年である(範囲:5〜25年超).死亡時の平均年齢は54〜55歳である [Harper 2005].

HDの臨床徴候

早期

  • 不器用
  • 易興奮性
  • 易刺激性
  • アパシー
  • 不安
  • 脱抑制
  • 妄想
  • 幻覚
  • 眼球運動異常
  • 抑うつ症状

中期

  • ジストニア
  • 不随意運動
  • 平衡障害,歩行困難
  • 舞踏運動,身体をねじったりよじったりする動作,痙動,よろめき,ぐらつき,ちぐはぐな歩行(酩酊状態様)
  • 手先の器用さを必要とする活動の困難
  • 緩徐な随意運動,動作開始時の困難
  • 動作の速度や強度の制御不能
  • 反射時間の延長
  • 全身衰弱
  • 体重減少
  • 発語困難
  • 頑迷

後期

  • 固縮
  • 運動緩慢(動作の開始,継続の困難)
  • 重度の舞踏運動(頻度は低い)
  • 重度の体重減少
  • 歩行不能
  • 発語不能
  • 嚥下障害,窒息の恐れ
  • 全介助

動作障害

HD患者には不随意運動と随意運動の双方に障害がみられる.非反復性,非周期的な四肢,顔面,体幹の痙攣である不随意運動障害である舞踏運動がHDの主要徴候である.舞踏運動は患者の90%以上に認められるが,発症後の10年間で増悪する.舞踏運動は覚醒時間に持続してみられるが,意識的に抑えることができない.またストレスにより増悪する.

疾患の経過が進むにつれて,動作緩慢,固縮,ジストニアといった他の不随意運動が現れる.随意運動障害は初期徴候である. 患者と家族は日常のなにげない動作が不器用になったと表現する.動作速度,動作の精緻なコントロール,歩行が難しくなる.眼球運動障害も初期に起こり,進行して増悪する.衝動性眼球運動の開始,緩徐衝動性及び水平衝動性の眼球運動が困難となり,注視固定に障害が認められるのは,症状のみられる患者の75%に上るだろう[Blekher et al 2006, Golding et al 2006].構音障害は初期の一般的症状である. 嚥下障害は末期に起こる. 反射亢進は90%の患者に起こる初期症状であるが,クローヌス発作や伸展性足底反射は後期の症状で,頻度は少ない.

認知障害

HD患者はみな認知能力が全般的進行性に低下する.認知能力の変化には,忘れっぽさ,思考過程の遅延化,視空間性認知能力障害,獲得知識の操作能力障害がある. 運動症状の発症以前に軽微な認知能力の低下が明確に認められたとする研究がいくつかある [Bourne et al 2006, Montoya et al 2006, Paulsen et al 2008, Rupp et al 2010, Tabrizi et al 2009].最初期の徴候の多くは,頭で考えるとか連続してやることを組み立てるなどといった,精神的柔軟性や遂行機能の欠如であることが多い.

情報を思い出すことが非常に困難になるといった記憶障害も初期に起こるが,言葉の手がかりや誘導するようなヒント,そして十分な時間を与えることで部分的もしくは正確な想起につながることもある.HD初期の記憶障害はアルツハイマー病と比べるとずっと重症度の低いものである場合が多い.

HD患者の認知症状及び行動症状はおおむねアルツハイマー病よりも前頭側頭型認知症に類似している.注意,集中能力は早期に侵され[Peinemann et al 2005],転導性がみられるようになる.言語機能は比較的保たれるが,末期には統語的複雑さのレベルの低下,皮質性発話障害, 錯語症,喚語困難が多くみられるようになる.

とりわけ病期の末期には,神経精神学的検査から視空間認知能力障害が明らかになる.患者はとりわけ自分の機能障害には無自覚なことが多い[Bates et al 2002, Ho et al 2006].

精神障害

HD患者には著しい人格変化,感情障害,統合失調症精神病が生じる[Rosenblatt 2007].HD発症以前の抑うつ症状,敵意, 強迫性,不安,対人過敏性,社会恐怖,精神病質のスコアは高い傾向にある[Duff et al 2007].進行性の認知・運動障害とは異なり,精神症状は疾患の重症度につれて進行することはない[Anderson & Marder 2001].間歇的な爆発性症状,アパシー,攻撃性,アルコール乱用,性的不能や性的逸脱,食欲亢進といった行動障害が頻繁に起こる.妄想は偏執症的な場合が多いが,一般的である.幻覚はそれほど多くない.

抑うつと自殺リスク

 臨床症状の発症前後の患者では一般集団と比べて抑うつ症状は2倍である[Paulsen et al 2005b, Marshall et al 2007].HDの抑うつ症状の発症原因は不明であるが,HDを発症したことによる心理的帰結ではなく病理学的原因によるものかもしれない[Slaughter et al 2001].HD患者の自殺や自殺企図は多いが,疾患の経過や発症前診断の結果により,その発生率は変化する[Almqvist et al 1999, Larsson et al 2006, Robins Wahlin 2007].自殺リスクが高い期間は診断を受ける直前と診断後であり,患者が自立感を喪失する時期であることがわかっている [Baliko et al 2004, Paulsen et al 2005a].

その他

HD患者のBMI指数は対照群と比べて低い [Pratley et al 2000, Stoy & McKay 2000, Djousse et al 2002, Robbins et al 2006].

HD患者の睡眠周期は乱れるが [Morton et al 2005], 視床下部の機能不全の結果であろうと思われる [Petersen & Bjorkqvist 2006].

若年型HD 

発症年齢20歳以前の場合,若年性HDと定義される.若年性HDは全HD症例の5〜10%である [Nance & Myers 2001, Gonzalez-Alegre & Afifi 2006].成人患者で観察される運動,認知,精神機能障害は若年性HD患者にも認められるが,これらの障害の臨床像は異なる.また,重度の精神機能障害,顕著な運動・小脳症状,発語・言語の遅延,急激な衰弱も若年性HDの特徴である [Nance & Myers 2001, Gonzalez-Alegre & Afifi 2006, Squitieri et al 2006, Yoon et al 2006].若年発症群だけにみられるてんかん発作は,発症年齢が10歳以前のHD患者の30〜50%に認められる[Gonzalez-Alegre & Afifi 2006].

中学生以降では,症状はずっと成人のHD患者に類似し,舞踏病と重度の行動障害が最初期によくみられる症状となる[Nance & Myers 2001].

神経病理学

 HDの神経病理学的特徴は,尾状核と被殻における神経細胞の選択的変性である[Cowan & Raymond 2006].変性を受けやすいのは大脳基底核の運動制御の間接路にある中型有棘エンケフリン含有神経細胞であり,これが舞踏運動の神経生物学的根拠である[Mitchell et al 1999].一般に,線条体の介在神経細胞は変性を免れる.変性を受けやすい脳の他領域は, 黒質,海馬,そしてさまざまな皮質領域である[Van Raamsdonk et al 2005].また,末梢組織所見が認められることもある [Bjo¨rkqvist et al 2008, van der Burg et al 2009].

HTT遺伝子の発現蛋白であるハンチンチン蛋白含有の神経細胞への封入もまた,HDに顕著な神経病理所見である.しかし,ハンチンチン蛋白の発現と,脳内でのハンチンチン蛋白封入のパターンと時期は,疾患の選択的変性とは相関しておらず,発病原因を決める主要因でないと考えられている [Kuemmerle et al 1999, Michalik & Van Broeckhoven 2003, Arrasate et al 2004, Slow et al 2005, Slow et al 2006]..

神経画像診断


" chrisitan減量"
MRI(磁気共鳴画像),CT(コンピュータ断層撮影),SPECT(単一光子放射断層撮影),PET(ポジトロン断層法)といった画像診断もHDの臨床診断に役立ち,疾患の進行を調べる上で有効な手段となる[Biglan et al 2009, Paulsen 2009].症状のみられる患者での顕著な線条萎縮はもちろん,他領域での変化や全体的な症状も検出されている[Mascalchi et al 2004, Henley et al 2006].神経画像診断から症状が見られる以前に線条体に顕著な変化が見られることが明らかとなっており,MRIスキャンで臨床症状の発症から遡ること11年前に顕著な線条萎縮が認められたことが分かった[Aylward et al 2004].近年の数々の研究では,HDの発症機序と進行過程の解明のために神経画像診断が活用されており,とりわけ臨床試験で関心がもたれている[Paulsen et al 2006].

遺伝子型と臨床型の関連

CAG反復数とHDの発症年齢の間には顕著な逆相関関係が存在する [Langbehn et al 2004, Langbehn et al 2010].

  • 成人発症患者では,通常,CAG反復数36〜55回のHTTアレルが認められる.
  • 若年発症患者では,通常,CAG反復数が60回超のHTTアレルが認められる.

3塩基反復回数ごとの予想発症年齢に関するデータについてはwww.cmmt.ubc.ca (pdf)を参照のこと.

また,CAG反復数と発症年齢のばらつきとの間には顕著な逆相関が認められる.発症年齢が高くなると発症するかしないかにばらつきが多くみられるが,これはCAG反復数の少なさに相関している.つまり,CAG反復数が多い場合に比べて少ない場合には,非CAG修飾因子の作用がより大きいことを示している [Langbehn et al 2004, Gusella & Macdonald 2009].平均して,CAG反復数で発症年齢のばらつきを70%まで説明できるが,残りの推定10〜20%のばらつきに関しては遺伝的要因が関与している[Wexler et al 2004, Li et al 2006].他の遺伝子座にある多くの遺伝子によって,このばらつきの遺伝的部分が少し説明されることが示された[Andresen et al 2007].あるゲノムワイド関連解析試験(HDMaps)では,4p16 [Djousse et al 2004]と6q23-q24 [Li et al 2006]に,いまだ知られていない遺伝要因とのつながりが見出された.

運動,認知,機能的評価の低下率は,変異アレルのCAG反復数に比例して高まる [Rosenblatt et al 2006, Aziz et al 2009].
行動症状の進行は反復数と相関がないようにみえる [Ravina et al 2008].

完全浸透型HDアレルのホモ接合の場合,発症年齢はヘテロ接合と同様のようだが,疾患の進行は加速するようである [Squitieri et al 2003].

浸透率 

CAG反復数が35回超のアレルはHD発病型アレルとみなされ,HD発症のリスクとなる.
しかし,CAG反復数36〜39回のアレルの浸透性は不完全であり,HD発症につながらないこともある.稀なケースであるが,高齢の無症状者にこの範囲のCAG反復数が見つかることがある.

CAG反復数40回以上のアレルは完全浸透性である.CAG反復数40回以上のアレルを持つ無症状高齢者の報告はない.

表現促進現象

疾患の重症化や発症年齢の低下が継代的に観察される表現促進現象がHDで起こることが知られている.表現促進現象は変異アレルが(母親からではなく)父親から受け継がれた場合に多く起こる.表現促進現象は精子形成時の不安定なCAG反復によって生じる.大規模な伸長(すなわち,CAG反復7回超のアレルサイズの増加)は父親から受け継いだ場合にのみ起こるといっていい.若年発症性の患児では伸長したアレルを父親から受け継いだ場合が極めて多いが,母親から受け継いだ場合もたまにある[Nahhas et al 2005].

病名

分子遺伝学が登場する前には,聖ヴィート舞踏病,シデナム舞踏病など,舞踏病には様々な病名があった.

小児発症性のHDである若年性HDは従来,ウェストファル型HDと呼ばれていた.

頻度 

西欧系集団ではハンチントン病(HD)の頻度は10万人中3〜7人である.日本,中国,フィンランド,アフリカ系黒人では HDの頻度は低い.日本のHD発症率は10万人中0.1〜0.38人と推定されている.HDの頻度が10万人中15人を超える集団もあるが,そのほとんどが西欧系である [Bates et al 2002].HDの原因となる遺伝的変化が初めて同定されたのは,HDの頻度が世界一高いと考えられているベネズエラのマラカイボ湖地方の患者である [Wexler et al 2004].
HDの分布が不均一であることは,これらの民族集団の正常集団における特異的な素因アレルとハプロタイプの分布によって少なくとも部分的には説明される[Warby et al 2009].特異的ハプロタイプのCAG伸長をもたらしているものが,ただ単に背景集団のCAGサイズの増加によるものなのか,もしくはこれらのハプロタイプに不安定性をもたらすシスエレメントが含まれているかどうかは明らかになっていない.

中間型のHTTアレル(「分子遺伝学的検査」を参照のこと)が約1〜4%の患者に見つかる集団もある[Maat-Kievit et al 2001, Semaka et al 2010].

鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと編集者注

ハンチントン病(HD)は舞踏病,認知症,精神疾患との鑑別診断に該当する.HD類似疾患との鑑別診断については最近レビューがまとめられた[Semaka et al 2008, Schneider et al 2007].

非遺伝性病態

非遺伝疾患も舞踏運動を伴うが,ほとんどの場合,HDが疑われるときは容易に除外される.舞踏運動の原因には遅発性ジスキネジア,甲状腺中毒症,脳血管疾患,脳性狼瘡,赤血球増加症などがあるが,関連所見や疾患の経過に基づき除外される.

遺伝疾患 考慮すべき遺伝疾患には以下がある:


ニュージャージー州の減量の催眠術
  • ハンチントン病類縁疾患1型(HDL1) ハンチントン病類縁疾患1型は早期発症型の緩徐進行性プリオン病であり,常染色体優性で,遺伝子,臨床症状が広くHDと重複する.HDL1は第20番染色体短腕上のプリオン蛋白(PrP)遺伝子であるPRNP遺伝子の特異的変異(8つの過剰なオクタペプチド反復8 extra octapeptide repeats)によって発症する[Laplanche et al 1999, Moore et al 2001].また,同じ遺伝子座の類似変異により,クロイツフェルト・ヤコブ病といった別のタイプのプリオン病が生じる(「プリオン病」を参照のこと).常染色体優性疾患である.
  • ハンチントン病類縁疾患2型(HDL2) ハンチントン病類縁疾患2型を臨床的にHDと区別することは不可能である.典型的には,中年期に間断なく進行する運動,感情,認知障害の3症状を発症し,10〜20年後に死亡する.原因変異はジャンクトフィリン-3(JPH3)遺伝子におけるCTG/CAG反復伸長である[Holmes et al 2001, Margolis et al 2001].HDL2の頻度はアフリカ系で最も高い(アフリカ系に限定された変異の可能性もある) [Margolis et al 2005].常染色体優性疾患である.
  • 有棘赤血球舞踏病(ChAc) 有棘赤血球舞踏病は,進行性の舞踏病類似の運動障害,進行性遠位型ミオパチー,有棘赤血球症を特徴とする.運動障害のほとんどが舞踏運動であるが,パーキンソン症候群を伴う患者もいる.ジストニアは一般的であり,口腔領域,とりわけ舌が侵される.進行性の認知・行動上の変化は前頭葉症候群に類似している.振戦は一般的である.平均発症年齢は約35歳である.有棘赤血球舞踏病の診断は特徴的なMRI所見と筋疾患所見に基づく.有棘赤血球が赤血球の5〜50%を占める.なかには,有棘赤血球症が認められなかったり,末期にのみ認められたりする場合もある.現在,有棘赤血球舞踏病に関連することが知られている唯一の遺伝子はVPS13A遺伝子である.常染色体劣性疾患である.
  • マクラウド神経有棘赤血球症候群 (MLS) マクラウド神経有棘赤血球症候群は,中枢神経系,神経筋肉系,血液学的所見を伴う男性の多臓器疾患である.HDと重複する臨床像には,大脳基底核の神経変性や認知障害,精神症状がある.MLSの血液学的所見は赤血球の有棘化,マクラウド血液群の表現型である.MLSはX連鎖疾患であり,XK遺伝子変異により発症する.
  • 脊髄小脳失調症(SCA17) 脊髄小脳失調症は舞踏運動,認知症,精神症状を特徴とする. SCA17患者に小脳失調は多いがHDではみられない[Bauer et al 2004].常染色体優性疾患である.
  • 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 (DRPLA)
  • 良性遺伝性舞踏病 良性遺伝性舞踏病は常染色体優性疾患であり,通常認知症を伴わない非進行性の舞踏運動を呈す.
  • 遺伝性小脳失調症 遺伝性小脳失調症は,顕著な小脳徴候や長索路徴候に基づきHDとの鑑別診断を行うこと(「運動失調症概説」を参照のこと).
  • クロイツフェルト・ヤコブ病 クロイツフェルト・ヤコブ病の進行はHDよりも急速であり,その不随意運動で際立つのはミオクローヌス発作である(「プリオン病」を参照のこと).
  • 早期発症型家族性アルツハイマー病
  • 17番染色体に連鎖する家族性前頭側頭型認知症パーキンソニズム (FTDP-17)
小児に対するHDの診断はHDの家族歴のある家系では確実である.孤発例(HD家族歴のない家系で唯一の罹患者)では,毛細血管拡張性運動失調症, パントテン酸キナーゼ関連神経変性症 (従来ハラーホルデン・スパッツ症候群として知られていたもの),レッシュ・ナイハン症候群,ウィルソン病,進行性ミオクローヌスてんかん[Gambardella et al 2001],その他の代謝疾患との鑑別診断を行うこと.

 


臨床的マネジメント

初回診断後の評価

ハンチントン病(HD)と診断された患者の疾患の程度を確認するためには,以下の手順が推奨される:

  • 身体検査
  • 神経学的評価
  • HDに関連する運動,認知,精神症状全般の評価.前述の臨床尺度システムでは,統一ハンチントン病評価尺度(Unified HD rating scale:UHDRS)により,HDの臨床症状と進行に対して信頼性の高い安定した評価ができる.

症状への対処

薬物治療は対症療法しかできない [Mestre et al 2009].

  • 舞踏運動は定型・非定型神経弛緩薬(ハロペリドール・オランザピン),ベンゾジアゼピン,モノアミン枯渇薬(テトラベナジン)によって部分的に抑制される可能性がある [de Tommaso et al 2005, Bonelli & Wenning 2006, Huntington Study Group 2006].
  • 抗パーキンソン薬は寡動症と固縮を緩和するが,舞踏運動を増悪させる恐れがある.
  • 抑うつ症状,精神症状,攻撃性の爆発発作といった精神障害には一般に向精神薬やある種の抗てんかん薬が奏効する.
  • バルプロ酸によってHDのミオクローヌス型運動過剰症が改善された[Saft et al 2006].
介護の必要性,栄養摂取,特殊な装置器具,国や地方自治体の給付受給資格にも配慮しつつ行われる生活支援介護は,HD患者とその家族には大変ありがたいものである. 数々の社会的問題がHD患者とその家族に付きまとう.実際的な援助,感情的サポート,カウンセリングによって心労が軽減される[Williams et al 2009].

続発的合併症の予防

主なHDの続発的合併症には以下がある:

  • 長期の支援介護を要する患者で典型的に起こる合併症
  • さまざまな薬物治療に伴う副作用.薬物の副作用は,薬物の組成,用量,患者自身のさまざまな要因によるが,HDで通常用いられる薬剤では,副作用として抑うつ症状,鎮静,悪心, 落ち着きのなさ,頭痛,好中球減少症,遅発性ジスキネジアが起こることがある.なかには,薬物治療の副作用で症状の増悪が起こる患者もいる.そのような患者の場合,治療を中止したり,用量を減量したり,定期的に休薬期間を設けることで,改善が見られることがある.現在舞踏運動治療に用いられている薬剤はとりわけ重篤な副作用がでやすい.軽度から中等度の舞踏運動の患者に対しては,動作訓練や言語治療など薬物療法以外でケアしたほうがいい.
抑うつ症状が見られる場合は,その標準治療が適切である[Paulsen et al 2005b, Phillips et al 2008].

経過観察

舞踏運動,固縮,歩行困難,抑うつ症状,行動変化,認知機能の低下の有無や重症度を評価するために定期的評価を行うこと[Anderson & Marshall 2005, Skirton 2005].

ハンチントン病行動観察尺度(Behavior Observation Scale Huntington:BOSH)は,介護施設でHD患者の機能的能力の経時的変化を迅速評価するために開発された尺度である[Timman et al 2005].経時的研究には統一ハンチントン病評価尺度(Unified HD rating scale:UHDRS)が用いられる [Huntington Study Group 1996, Siesling et al 1998].

回避すべき薬剤・環境

Lドーパ含有薬は舞踏運動を増悪させる恐れがある.

禁酒と禁煙を勧めること.

リスクのある血縁者の検査

遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者の検査に関連する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.

研究中の治療

有望視される治療法がHD動物モデルやヒト対象の臨床試験において幅広く研究されている.この多様性は,HDで障害されることがわかっている細胞経路がさまざまであることを反映している[Bonelli et al 2004, Rego & de Almeida 2005, Borrell-Pages et al 2006, Graham et al 2006, Bonelli & Hofmann 2007].

HDに対して様々なヒトに対する臨床試験が計画,実施されており,これらはwww.huntington-study-group.orgに掲載されている.

種々の疾患に対する臨床試験についてはClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

1人の親がHD患者の小児や青年は,非常に困窮した生活を送っていることもあり,特別な問題を抱えがちである.教材や必要とされる心理サポートを与えるため,地域のHD支援グループへ紹介するとよい(「関連情報」を参照のこと).
認知障害は治療不能である.
アルツハイマー病治療に用いられているドネペジルはHDの運動機能や認知機能への改善は認められていない [Cubo et al 2006].
遺伝クリニック  遺伝専門医のいる遺伝クリニックは患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者サイドに立った情報も提供する.GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.


Consumer Resources では,この疾患について,疾患別の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループが掲載されている.これらの組織は患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供する

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」

遺伝形式

ハンチントン病(HD)は常染色体優性疾患である.

血縁者のリスク

発端者の両親

  • HDと診断される者のほとんどに罹患者である親が1人いるが,以下の理由で家族歴がみられないことがある:
    • 血縁者の疾患を見過ごしている場合
    • 症状発症以前の親の早期死亡
    • 無症状の親が中間型アレル(アレルサイズ:27〜35回のCAG反復)もしくは低浸透性HTTアレル(アレルサイズ:36〜39回のCAG反復) を持つ場合
    • 罹患者である親が後期発症性の場合
  • 新生突然変異のように思われる発端者の両親に対しては,分子遺伝学的検査の実施が推奨される.

発端者の同胞

  • 発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝状況による.
  • 1人の親が罹患者である場合,もしくはCAG反復伸長40回以上のHTTアレルを1つ持っている場合,同胞のリスクは50%である.
  • 父親が中間型HTTアレルを持っている場合,同胞が変異アレル(すなわち,CAG反復数36回以上)を受け継ぐリスクは5%程度と推定される(50% x 10%).
  • 低浸透性HTTアレルを受け継いだ同胞がHDを発症するかは不明である.

発端者の子

  • 受精時に,HD患者の子がHTTアレルのヘテロ接合の結果として発病性変異を受け継ぐ確率は50%である.
  • HTT遺伝子のCAG反復伸長に関してホモ接合の患者の子はHD発病性アレルを受け継ぐことになる.
その他の血縁者. 他の血縁者のリスクは発端者の両親の遺伝状況による.親の1人が罹患者である場合,もしくはHTT遺伝子にCAG伸長を伴っている場合,その家系の血縁者にはリスクがある.

発端者の他の家族 

発端者の親の遺伝状況により,他の家族のHD発症リスクは異なる.親が発症している場合もしくはHD遺伝子にCAG伸長が見られる場合には,その家族は発症リスクを持つ.

遺伝カウンセリングに関連した問題

中間型アレル(IA):CAG反復数2735回. 中間型アレルをもつ者にHD発症リスクはない.しかし,世代を経るごとにCAG反復配列が伸長するというCAG反復の不安定性から,その子にはHD発症リスクがある[Semaka et al 2006].中間型アレルの親から子が35回以上のCAG伸長アレル,すなわち「HD新規変異」を受け継ぐリスクは,以下のような様々な要因に基づく:

  • アレルのCAGサイズ. CAG伸長が長い場合,より伸長しやすい.
  • 変異を伝える親の性別・年齢. 父親から受け継いだ中間型アレルの方が母親から受け継いだ中間型アレルよりもCAG反復が伸長しやすい.母親から受け継いだ中間型アレルの伸長がHD発病域にまで達した報告はこれまでないため,これは理論上のリスクに留まっている.父親の年齢が高齢化して受け継いだ場合の方が中間型アレルの伸長がみられる.
  • CAG伸長を伴うシス配列のDNA配列. CCGの3塩基が割り込んでいるCAG領域の方が安定性が高い.

CAG反復35回のHTTアレルを受け継ぐリスクは6〜10%と推定されている.(前述の推定値はCAG反復28〜34回のアレル伸長に関する確率であり,これらの数値より低くなっている.)

リスクのある無症状成人の検査. HDリスクのある無症状成人の検査は10年以上前から実施されている.疾患を確定づける症状が見られない場合の発病性変異の検査は発症前診断である.このような無症状者に対する検査は,正確な発症年齢,重症度,症状のタイプ,進行速度の正確な予測には有効性がない.しかし,一定のCAG反復サイズごとに特異的な発症年齢を予測するLangbehn et al [2004]のデータは有益かもしれない. www.cmmt.ubc.ca/hayden (pdf)の「付録表」も参照のこと. HDリスクのある者への検査の際には,罹患している血縁者のHD遺伝子のCAG伸長を検査することが,当該家系の疾患がHDだと確証する際の一助となる.

リスクのある成人無症状血縁者は,出産,金銭的問題,職業選択に関する個人的決断を行う上で検査を希望する場合もある.またただ単に「知る必要がある」といった別の動機を持つ場合もあろう.リスクのある成人無症状血縁者の検査には通常,検査前に面接があり,検査を希望する動機,HDに関する知識,検査結果のもたらすいい面と悪い面とが話し合われ,神経学的検査も行われる.検査を希望する者は,健康,人生,障害保険適用範囲,雇用や教育上の差別,社会的家族的関係の変化に起こりうる問題についてカウンセリングを受けるべきである.興味深いことに,近年,遺伝子検査が差別リスクを増すことがないという研究結果が出された.遺伝的差別を感じるのは,HD遺伝子検査の結果というよりも,個人の遺伝状況にかかわら ずHDの家族歴によるところが大きいようである [Bombard et al 2009].その他に考慮すべき問題に,血縁者のリスク状態に係ることがある.HDの発症前診断プログラムでは,抑うつ症状や自殺企図は取り上げられるべき問題点である[Robins Wahlin et al 2000, Robins Wahlin 2007].インフォームドコンセントを得て,記録は機密扱いすべきである.変異アレル保持者は長期的フォローアップと定期的評価が受けられるようにする必要がある.

カナダ発症前診断プログラム(Canadian Predictive Testing Program)参加者に対する短期的フォローアップで,HDの発症前診断が,リスクのある者の心理的健康を維持,もしくは改善させるという結果が明らかとなったが,なかには心理的ダメージを受けた者もいた.死亡リスクがあることがはっきりした集団の約10%はこの新しい状態への適応に深刻な困難がみられた.彼らにとっての一番の問題は計画の立たない将来に立ち向かっているという認識である.総じて,リスクのある無症状成人の検査への需要は,直接的な分子遺伝学的検査が実施されるようになる前に行われた試験で期待されていたよりも低かった.医療サービスや一般の遺伝子検査の利用と同じく,女性は男性よりもHDの発症前診断を受けることが多いようである [Taylor 2005].

HTT遺伝子に変異アレルを持つ無症状者のパートナーの心理的ストレスを扱った試験で,Decruyenaere et al [2005]はパートナーも変異アレルを持っていることが判明した当人とすくなくとも同程度のストレスを抱えているが,彼らの苦悩は「権利剥奪状態」,すなわち社会的に認識されない傾向にあるとした.

小児期のリスクのある無症状者の検査. 18歳未満のリスクのある無症状者の検査を親が希望する場合,慎重なカウンセリングが必要となる.18未満の無症状者は検査を受けるべきでないという合意がある.このような検査に反対する基本的な論点は,彼らの知る権利・知らない権利が剥奪されるという点であり,家族関係やその他の社会的人間関係のなかで烙印付けがされる可能性があるという点あり,教育的職業的影響が深刻なものになりうるという点である.Duncan et al [2005]は,治療法が存在しない成人発症性疾患のリスクがある49人の無症状未成年への検査とその結果に関する報告を行っている.子どもに対する遺伝子検査に関するアメリカ遺伝カウンセラー学会の決議文を参照のこと.アメリカ人類遺伝学会は考慮すべき点として,小児期青年期における遺伝子検査における倫理的,法的,心理社会的影響を挙げている.

新生突然変異のように思われる血縁者への配慮. どちらの親もHD発病性HDアレル(CAG反復35回超)や中間型アレル(27〜35回)を持たない場合,考えられる非医学的説明には,生物学的父親もしくは母親が異なる場合(生殖補助医療など)や,未公開の養子縁組などが考慮されよう.


家族計画. 遺伝的リスクの評価や出生前診断についての検討は妊娠前に行うのが望ましい.同様に,リスクのある無症状血縁者の遺伝状況を確定する検査についての話し合いも妊娠前に行うことが最適である.

DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

胎児のリスク50%. リスク50%の妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15〜18週ごろに実施される羊水検査や胎生週数10〜12週ごろに実施される絨毛膜絨毛生検(CVS)により採取された胎児細胞から抽出したDNA解析により可能である. 出生前診断の実施以前に,家系内患者の発病性アレルを同定すること.

注:胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.

典型的な成人期発症性疾患に対する出生前診断への要望はあまり多くない.出生前診断の実施には,専門医のあいだでも家族によっても考え方が異なるだろう.特に,検査が妊娠中絶を考慮したうえで行われる場合にはなおのことである.たいていの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが,この問題について話し合うことが大切である.

着床前遺伝子診断 (PGD) は発病性変異が同定されている家系に実施される.現行のPGD除外プロトコルでは,夫婦自身は発症前に変異検査を受けることを望んでいないリスクのある家系出身の夫婦に,胎児に対する検査を許可している [Sermon et al 2002, Stern et al 2002, Moutou et al 2004, Jasper et al 2006].PGDを行っている施設に関しては,を参照のこと.

 


関連情報

更新履歴

  1. GeneReview 著者 :Mahbubul Huq , MD, PhD, FCCMG; Michael R Hayden, MB, ChB , PhD, RFCP(C), FRSC.
    日本語訳者 :吉田邦広(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    GeneReview 最終更新日: 1998.9.30.  日本語訳最終更新日: 2003.8.4.
  2. GeneReview 著者 :Simon C Warby, PhD, Rona K Graham, PhD, Michael R Hayden, MB, ChB, PhD, FRCP(C), FRSC.
    日本語訳者: 窪田美穂,櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2007.7.19.日本語訳最終更新日: 2008.3.3.
  3. GeneReview 著者 :Simon C Warby, PhD, Rona K Graham, PhD, Michael R Hayden, MB, ChB, PhD, FRCP(C), FRSC.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2010.4.22. 日本語訳最終更新日: 2010.6.16.

 

原文 Huntinghton Disease



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